先日、約20年勤めた会社を辞めました。
退職を決意するに至る過程が、なかなかシンドかったものですから、退職が決まってからは、胸のつかえが取れたと言うのでしょうか。それまでの曇天が快晴に変わったかのように、退職日まで清々しい気持ちで過ごせました。
退職後に会社から離職票が届いたので、早速ハローワークに行って失業保険の手続きをしました。
早期退職を機にスローライフを始めたとはいっても、残念ながら悠々自適の隠居生活を送るというわけにはいきませんから、次の仕事が見つかるまでは失業中の身です。
失業保険はその命綱、そこはしっかりとやりました。
ハローワークに行って失業手当の受給手続きをし、受給資格の認定を受けたのですが、私の場合、ここでひとつ大きな心配事がありました。
離職理由の認定についてです。
ご存知かと思いますが、失業保険は、退職理由が「自己都合」によるものか、倒産や解雇など「会社都合」によるものかで、給付日数や給付制限の有無などに大きな差があります。
倒産や解雇は比較的稀なケースですから、大半の人は「自己都合」退職で申請して認定を受けるのですが、実は、倒産や解雇以外にも「会社都合」となる条件がいくつかあり、自己都合以外の正当な理由を申請してそれが承認されれば、「特定受給資格者」として、手厚い措置を受けることができます。
私が申請したのは、その、いくつかの条件のうち、
「離職の直前6か月間のうちに、いずれか連続する3か月で45時間を超える時間外労働が行われたため」
と、いう離職理由でした。
意外と思われる方が多いかと思いますが、長時間残業は、実は会社都合の離職理由になり得ます。
ただ、私の場合、会社から送られてきた離職票には「自己都合による」と記載されていましたので、「離職者本人の判断」欄に「意義-あり」とし、長時間残業による退職の旨を明記し、証跡の出勤簿を添えて提出していました。
会社の認識と私の認識がなぜ相容れなかったかについての仔細は控えますが、要は「肩たたき」をする側と、される側の認識の決定的な相違と言いますか、よくある話です。
当初は、会社に言われるまま、離職理由が「自己都合」であることに、何の疑問も持たなかったのですが、実は「会社都合」の離職に該当することを知り、証跡を添えてその旨を提出しました。
私の申請した離職理由が認められるか、会社の記した「自己都合」になってしまうのか、結果が出るまでかなり不安でしたが、
無事、申請が認められ、特定受給資格者に認定されることができました。
50歳を過ぎてからの退職、求職活動ともなると、次の職を見つけるのに長期間を要することも考えられますので、特定受給資格者に認定され、失業手当の給付日数が大幅に増えたことで、ひとまず安堵しています。
私と同じような状況に置かれて退職を考えている方に、おそらく参考にしていただけるものと思いますので、今回は、失業保険手続きの際の「特定受給資格者」認定について、あらましを書いてみたいと思います。
特定受給資格者とは?
「特定受給資格者」という言葉、失業保険の手続きをしたことがない方には、あまり馴染みのないワードかと思いますが、倒産や解雇等(会社都合)の理由により、再就職の準備をする時間的余裕のない状態で離職することになった人を指します。
一般離職者(自己都合による離職)に比べて、受給条件が緩和されており、失業手当の給付日数が長く、一般離職者の場合通常2ヶ月間設けられている給付制限が無いのが主な特徴です。
特定受給資格者に認定されるためには、厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」に明記されている適用条件に該当していることが必要で、以下の2つに大別されます。
1.「倒産」等により離職した者
2.「解雇」等により離職した者
いわゆる会社都合の退職が「倒産や解雇の場合」という認識はここからきていて、大まかには合っているのですが、実は『「解雇」等』の『等』の内容が多岐にわたっていて、その大半が解雇という言葉の範疇を超えて、労働条件や労働環境に関するものになっているのです。
ほとんどの人は、このことを知りません。
退職を考え始めた時点、あるいは退職を決意した時点でこのことを知っていれば、会社都合の退職に自分が当てはまるかどうか正しく判断できますし、また、当てはまる場合には、退職後に特定受給資格者資格の認定を受けるための証拠書類を、在職中に用意することができます。
しかし、多くの場合は、退職という一大事に頭がいっぱいで、失業保険の認定のことまで考えが及びません。
本来は特定受給資格者に該当する理由で退職しているにもかかわらず、そのことを知らないまま、自己都合で申告している離職者も少なくないと思われます。
かく言う私も、給付金受給サポート会社からレクチャーを受けるまでは、倒産と解雇以外にも会社都合退職になる場合があることを、全く知りませんでした。
『「解雇」等』の等』には、どういった内容が含まれているのか、特定受給資格者の範囲について『「倒産」等』と、『「解雇」等』の、それぞれの判断基準を改めて見ていきたいと思います。
尚、以下の記載は、退職を考えている方に、特定受給資格者に該当している可能性に「気づいて」いただければと思い、簡潔に要点のみを挙げたものです。
それぞれの項目には、具体的な内容、数値条件や該当期間、例外規定等が細かく定められていますので、ご自身が該当するかどうかを確認される際には、「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」を確認の上、ハローワークに直接問い合わせるようにしてください。
特定受給資格者認定の判断基準は?
「倒産」等による離職
判断基準の一つ目は、「倒産」等による離職です。こちらは概ね文字面から推察できる内容で、以下の4つの理由で退職する場合、「会社都合」の離職となり、特定受給資格者に該当します。
「倒産」等による離職の範囲
- 勤務先の倒産
- 事業所の大量雇用変動(人員整理)
- 事業所の廃止
- 事業所の移転による通勤困難
倒産、人員整理、廃止、移転というのは、いずれも誰の目から見ても明らかな事実で、この場合、会社と退職者の間に「見解の相違」は通常起こり得ませんし、倒産による離職を、自己都合で申請などと言うこともまず考えられませんので、さらっと見ておいていただくだけで特に問題はないかと思います。
問題は次の「解雇」等による離職の範囲です。
「解雇」等による離職
判断基準の二つ目は「解雇」等による離職です。離職理由が、以下13項目のうち1つでも当てはまる場合、「会社都合」の離職となり、特定受給資格者に該当します。
「解雇」等による離職の範囲
- 勤務先からの解雇
- 入社時に提示された労働条件と実際の労働条件の相違
- 賃金の3分の1を超える額が未払い
- 賃金が85%未満に減額
- 長時間の時間外労働
- 妊娠中や出産後、介護中の労働の強要
- 職種転換時の無配慮(十分な教育訓練の欠如等)
- 有期雇用契約で3年以上雇用された者が契約更新されなかった場合
- 有期雇用契約で契約の更新が明示されているにもかかわらず、契約更新されなかった場合
- 上司・同僚からのいやがらせ、ハラスメント
- 退職の働きかけ・誘導、希望退職制度への応募
- 使用者の都合による3ヶ月以上の休業
- 業務の法令違反
以上が、「解雇」等による離職の範囲になります。
「解雇」に関する内容は一つ目の条件のみで、他の条件の中には、長時間労働(残業)、ハラスメント、給与の大幅な減額、退職の働きかけなど、比較的多くの職場で起こり得る事柄で、且つ、退職者当人の「自己都合」による退職にされてしまいがちな内容が含まれています。
繰り返しになりますが、ご自身が上記に該当しているのではないかと思われた場合は、「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」で詳細を確認の上、ハローワークに直接問い合わせて判断するようにしてください。
その上で、該当するようであれば、会社がこれらの理由による退職であることを認めず、離職票に「自己都合」と記載した場合に備えて、自己都合ではないことを証明する「資料」を、あらかじめ準備しておくことが必要です。
具体的にどのような資料が必要かは「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」の「持参いただく資料」を参照ください。
理不尽な「泣き寝入り」を防ぐという意味でも、在職中から、該当条件を正確に把握し、必要な証跡書類を準備しておくことが肝要です。
「特定理由離職者」について
尚、特定受給資格者に当てはまらない「自己都合」の退職であっても、労働契約の未更新(いわゆる雇い止め)や、病気や障害、妊娠・出産、介護など、やむを得ないがある自己都合の場合には「特定理由離職者」に認定される場合があります。こちらの場合も、受給条件や、給付日数、給付制限無しなどの優遇措置がありますので、同じく厚生労働省の判断基準で該当条件を確認してみてください。
長時間残業は「会社都合」の離職理由になる
さて、特定受給資格者についての説明が長くなりましたが、私のケースについて、今少し書いておきたいと思います。
私が申請したのは、
『「解雇」等により離職した者』の『5』長時間の時間外労働でした。
厚生労働省の判断基準から、該当部分を記載すると次のようになっています。
離職の日の属する月の前6か月間(賃金締切日を起算日とする各月)の間に45時間を超える時間外労および休日労働が3月連続してあったため離職した場合、100時間を超える時間外労働および休日労働が1月あったため離職した場合、又は2~6月平均(※)で月80時間を超える時間外労働および休日労働が1月あったため離職した場合が該当します。
※いずれか2ヶ月以上連続する月の平均の意
私の場合は、上記のうち、45時間を超える時間外労働が3ヶ月連続してあったため、という離職理由で申請して、特定受給者資格の認定を得ました。
45時間というと「以外と少ないな」と思われる方も多いのではないでしょうか。
念のため補足しておきますと、労働基準法では時間外労働の上限が「月45時間・年360時間」と定められています。
いわゆる36協定というものです。
この時間を超えた残業は法律上は、原則違法ということになります。
この上限を超える場合、労使間で「特別条項」を加えて36協定を締結することにより、臨時例外的な事情がある場合に、この上限時間を超えて働かせることが認められています。
ただし、これにも上限があって、特別条項付きの上限は、
- 時間外労働が年間で720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月間で100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が2ヶ月から6ヵ月の各平均で全て80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは年間6ヵ月まで
と、定められています。
つまり、この上限を超えるような長時間残業が理由の退職は、会社都合の退職として扱われるというわけです。
尚、この場合の「時間外労働」は、「法定時間外労働(法定残業)」を指します。法律によって定められた「法定労働時間」(通常は1日8時間・週40時間、一部の勤務形態では異なる)を超える時間外労働がこれにあたります。
企業ごとに決められた所定労働時間(例9:00~17:00/休憩1時間など)を超える時間外労働である「所定時間外労働(所定残業)」と間違えやすいので注意が必要です。
ちなみに私の場合は、いわゆる「肩たたき」という間接的な退職への働きかけ(11.退職の働きかけ)が継続して行われる中、突然の降格によって給与額が大幅に低下し(4.賃金が85%未満に低下)、長時間残業が常態化している業務を余儀なくされ(5.長時間の時間外労働)、加えて上席からの誹謗中傷(10.上司からのいやがらせ)などが積み重なって、散々。。
でしたので、要素は満載(笑)だったのですが、「これは辞めるしかない」と決意した時点では、これらの退職理由が「会社都合」としてハローワークに申請できるものだとは、全く知りませんでした。
幸い「調べておくのに越したことはない」と思い、失業保険について詳しく調べたことで、そのことに早めに気づけたので良かったですが、知らないまま「自己都合」で申請していたら、あるいは、知ったにしても退職後で証拠書類が用意できなかったら、と思うと、空恐ろしい気持ちになります。
この文章を読んでくださっている方で、もし、私と同じような境遇にあって退職を考えていらっしゃる方がいたら、それは「会社都合の退職」であるということに、一刻も早く気づいてほしいと思います。
ちなみに、私が実際にハローワークに申請したのは、上にいくつか挙げた退職理由のうち長時間労働に関するものだけでした。
賃金低下に関しては、減額されたのが退職する1年以上前のことだったので厚生労働省の判断基準に記載されている期日を超過してしまっていたため、この理由での申請は諦めました。
また、退職勧奨といやがらせについては、立証する証拠資料が無く申請しませんでした。
もし、退職勧奨やいやがらせ、ハラスメントがあった場合は、仮にその時点で退職にまで考えが至っていなかったとしても、極力早い段階から具体的に言われたこと、あったことを録音やメール、文章などで随時記録に残して、後日に備えてください。
特定受給資格者に認定されることのメリット
いささか重い話になってしまいましたが、特定受給資格者の制度自体、意に反して突然退職をせざるを得なくなった労働者を救済するためのものですので、優遇措置はかなり手厚いものになっています。
私自身、思わぬ形で「望まぬ退職」を経験し、精神的にかなりキツい日々が続いていましたので、特別受給資格者に認定されたときには、
「世の中理不尽なことばかりじゃない。。」と、久々に救われたような気持ちになりました。
具体的な優遇措置としては、以下です。
失業手当の給付日数が長くなる
日数は年齢区分と雇用保険の被保険者期間によりますが、私の場合、45歳以上60歳未満、10年以上20年未満の区分で270日になりました。自己都合の場合は120日ですので倍以上の期間になりました。
失業手当の給付が「給付制限」無しで開始される
最初の手続きから約1ヶ月後に振り込まれます。自己都合の場合は通常約2ヶ月半後(待機期間7日+2ヶ月の給付制限の後に振り込み)になります。
失業手当の受給条件が緩和される
私の場合、前職が比較的長かったのでこれは直接関係ありませんでしたが、通常失業手当を受給するには離職前の2年間に12ヶ月以上の被保険者期間が必要なにに対して、特例受給資格者は、離職の前の1年間に6か月以上の被保険者期間があれば受給できます。
国民健康保険料の減免措置が受けられる
これは概して見落とされがちですが、大きな事柄ですので是非留意しておいてください。
国民健康保険の減免額は前年の給与所得額によりますが、特定受給資格者の場合、前年の給与所得を実際の約3分の1(30/100)として保険料が算出されますので、それ相当の額が減免されます。
市役所で試算してもらったところ、私の場合は支払額も約3分の1に減額されました。
会社を退職し次の就職先が決まっていない場合、家族の扶養に入る場合を除けば、前職の健康保険を個人で継続するか(任意継続)、国民健康保険に加入するか、いずれかを選択することになります。
任意継続の場合、会社と折半していた保険料を全て自己で負担する形になりますので、離職前の約倍額の保険料を支払わなくてはならなくなります。
では、国民健康保険の方が安いかと言えば案外そうでもなく、離職前の年収額によっては、国民健康保険料の方が高くなるということも珍しくありません。
私の場合、前職の健康保険を任意継続する方がわずかに安かったため、当初は任意継続をで手続きしていました。
最初から「会社都合」の離職理由であることが確定していれば、国民健康保険の減免申請一択だったのですが、前述のように、会社から送られてきた離職票には「自己都合」と書かれていましたので、ハローワークの認定結果が出てからでは、任意継続の締め切りに間に合わなくなる可能性があり、やむを得ない選択でした。
結果的に、特定受給者資格者として承認されたため、任意継続した健康保険をやめて、改めて国民健康保険に切り替えました。
手間はかかりましたが、毎月数万円の負担減は、失業中の家計にとっては大きく、ありがたい限りです。
おわりに
会社都合の退職と特定受給資格者の話を長々と書いてきましたが、「まさかの時」の参考にしていただけたら幸いです。
保険制度は心強くありがたい制度ですが、残念ながら「申告ありき」の制度になっていますので、必ずしも利用者にとって最良・最大の給付金受給方法を教えてくれるものではありません。
本来受け取れるはずの給付金が無いばかりに、生活難で転職活動が充分にできず、望まない転職先を選ばざるをえなくなってしまう事態だけは避けたいものです。
そうなることを避けるためには、退職前のできるだけ早い段階で、あらかじめ雇用保険や健康保険について調べ、最良の受給方法について理解しておくことを、私自身の経験を踏まえて強くおすすめします。
尚、過酷な労働環境で心身の不調を抱えての退職など、制度の確認はもとより退職の手続きさえ困難に感じる状況の場合は、退職手続きを当人に変わって代行してくれ、給付金申請をサポートしてくれる民間のサポート会社に手続きを委託するというのも賢明な方法です。
現在、心身の不調を抱え、求職中、または通院中の方は、「傷病手当金」の受給ができるかもしれませんので、いちど無料相談をされてみてはいかがでしょうか。
傷病者給付金受給サポートの実績が豊富で、全国対応が可能な会社としては、以下の2社が比較的よく知られています。
給付金は、先行きが見えない転職活動の「命綱」となり、その先に育ち得る可能性の芽を養う「水」になります。
ぜひとも最良の選択をされて、実りある活動につなげていただけたらと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
尚、長引きがちなシニアの転職活動に有効な一手段「公共職業訓練」についてまとめましたので、ご参考までに。
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