働くことを楽しむ

50代の転職は厳しい。現実を直視し「新たな仕事観」を持って臨もう。

2022年7月26日

この稿を書くにあたって、あらためて指折り数えてみたのですが、

私は、先頃退職するまで、30年近くの社会人生活で5回転職し、転籍を含めれば計8社で働いてきました

8社のうち、転職情報メディアや、転職支援を含めた人材関連サービスの会社が4社と、その半数を占めています。

あるときはサービスを提供する側として、またあるときはサービスを利用する側として、転職業界や転職市場、転職事情についても、直接もしくは間接的に多くを見、知り、体験してきました。

振り返ってみれば、公私にわたって、かなり長いこと「転職」という事柄に携わってきたことになります。ー

もっとも、転職活動において何か必勝法めいたノウハウを持っているかと言えば全くそんなものはなく、私自身、自らの転職体験は多くの失敗といくらかの偶然の成功の繰り返しでした。

前職を辞める際にも、退職前に次の就職先を見つけようと努力してはみたものの、首尾よくいかず、現在無職の身ですので、偉そうなことは何も言えません。

そんな次第ではありますが、縁あってこのブログを見ていただいた方、特にシニアと呼ばれる年代の方で、現在転職を考えておられる方に少しでも役立つことがあればと思い、いささかの知見と自身の体験をもとに、テーマを50代の転職に絞って書いてみることにしました。

この稿のカテゴリーは「働くことを楽しむ」となっていますが、50代以降の転職というのはどうしても厳しさが先立ちます

そこを乗り越える苦労は伴いますが、その先にあるスローライフ志向の働き方、それを楽しむために、私も目下奮闘中です。

もしかしたら、単なるボヤキになってしまうかもしれませんが、私の経験をふまえ、本音とホントの事情についてありのままを書いてみたいと思いますので、参考にしていただけたら幸いです。


ある日突然景色が変わり「転職」がリアリティーをもちはじめる

シニアと言われる年齢に差し掛かった方は、多少の違いはあれ、ある程度は「仕事人」としての自分に自信を持っているのではないでしょうか。

今に至るまでの経験が自分史の中に刻まれていて、成功体験も失敗体験も含め、長く社会の海原を航海してきた、そのことに対しての自負をお持ちだと思います。

とりわけ50代半ばから後半になると、長く努めてきたなりの収入があり、それなりの貯蓄もあり、そろそろ社会から長年の奮闘努力をねぎらってもらえる年齢だというある種の達成感もあり、比較的平穏な日常を過ごしている方が多いのではないでしょうか。

ある日突然に事情が変わり、転職を現実のものとして考えるようになるまでは

「事情」にはいろいろありますが、中でも人事異動による組織変更や配置転換、これが最も多い事情かと思います。

人事異動で上司が変わったり、部署が変わったりして、それまで平穏だった会社生活が一変、合わない上司や職場に極度のストレスを感じるようになるといったケースは、会社員にはしばしば起こりうる事柄です。

この場合、我慢して耐えていられるうちに環境が改善、あるいは自ら動いて状況を打開できれば幸いですが、とりわけ「合わない」人間が上司になった場合などは、それまでと比べて業績査定が著しく下がったり、誹謗中傷やパワハラに晒されたりすることも多く、退職の決断を余儀なくされる場合も少なくありません。

主要なポストや職域から外されるなどの、いわゆる「肩たたき」にあい、それまでの職場に居辛い雰囲気になってしまうことがあります。

しかもそうした「肩たたき」の場合、肩書きの喪失とともに役職手当なども減額されて大幅な収入の低下を伴うことが多く、「現状を達観して感受する」のは、言葉で言うほどたやすいことではありません。

過去に私が話を聞いた求職者の中には、突然身に降りかかってきた事情、理不尽な仕打ちに、ここ何年も感じることのなかった激しい憤りや屈辱を感じ、日々やり場のない憤懣の念に苛まれている、といったような方も少なからずいらっしゃいました。

ことにコロナ禍以降は、シニア世代にそうした方が増えたように思います。

比較的順風満帆だった会社生活に、突然想定外の逆風が吹き始めるというのは、往々にして起こりうることではありますが、とりわけコロナ禍以降は、これが顕著になったように思います

これは、コロナ禍で社内でのコミュニケーションがダメージを受け、組織としてのつながり密度が低下したことにより、個としての職務内容の明確さや、直接的な実績貢献度が極端に重視されるようになり、その結果として、これまではチーム運営の潤滑油、組織内連携の橋渡し役として一定の価値を認められていた世代が、一転して無用の存在と認識されるようになったためではないか、と思われます。

ともあれ、やむを得ない事情で会社を辞めざるを得なくなった場合、よほど貯蓄に余裕のある人以外は、次の就職先を見つけなればならないわけで、好むと好まざるとにかかわらず転職活動をはじめることになります。

大半の人は、退職の意思を会社に伝える前に、ひとまず転職情報サイトや転職エージェントに登録し、在職しながら転職活動を始めます。

運よくパッと良さげな会社が見つかり、サクっと応募したらスイスイ話が進んで、何週間も経たないうちに内定獲得、となればそれに超したことはありませんが、

50代以降の転職では、ほとんどの場合そうはなりません

転職先選択の是非は別として、20代、30代の場合には転職活動がとんとん拍子に進むというのは、さして珍しいことではありません。

需要が圧倒的に多いからです。

40代になると需要は目に見えて減りますが、それでも、一定数のニーズは存在します。

しかし、50代以降の転職では、在職中からヘッドハンティングの話が舞い込むようなハイクラス管理職や、待っているだけでスカウトメールが来るようなIT・DX人材、キャリアの天下り先が容易に見つかる特定専門職でもない限りは、多くの場合、厳しい現実に突き当たることになります。

自己幻想が音をたてて崩れてゆく50代の転職活動

厳しい現実、それは概ね次のステップをたどって実感されることになります。

まず最初に複数の転職サイト、転職エージェントへ登録をします。これが第一ステップ

必要なこととは言え、これがかなり手間のかかる作業で、サイトの運営会社によってフォーマットが異なるため、職務経歴書をひとつ作ってコピペ&コピペという具合にはいきません。

休日に、あるいは平日帰宅してから、時間をかけて一つ一つ登録していくわけですが、よほど前向きな人以外は、精神的に疲労を覚えつつの作業となるかと思います。流用できる箇所は流用して登録を進めていくわけですが、複数のサイト全てに登録し終えるには、そこそこの忍耐を要します。

サイトに登録を終えると、その日のうちに当該サイトから案内メールが届くようになります。

1サイトあたり1日1通として、5サイト登録なら1日5通。サイトによっては1日に複数の案内メールが届くこともあり、実際には一日にかなりの数のメールが届くようになります。

毎日、「あなたの希望に合った求人」「年収〇〇万以上の求人」「〇〇職の経験が活かせる求人」といった題名で、メールが山ほど来ます

それらにまじってポツポツと「エントリーしてみませんか」とか「企業があなたに興味を持っています」といった「応募のお誘い」メールが届くこともあります。

入社以来一つの会社にずっと勤めてきた人や、転職情報誌を見て電話で応募する時代にしか転職を経験していない人には、これは、ちょっとしたサプライズです。

「この年齢でも結構ニーズはあるんだな」と嬉しい気持ちになったりもします。

毎日スマホに届く案内メールを見て過ごす時間が長くなります

中には応募を迷う案件もあったりして、検討に費やす時間が日ごとに長くなります

もしかしたら、この段階でエージェント企業からアドバイザーとの面談の案内があるかもしれません。これは願ってもないことなので、無碍にせず必ず応じておくべきです。

50代以降ともなると、そもそも面談の案内すらないことが多いので、そうした場合は自分から連絡をとって、面談を依頼することをお勧めします。

それでも「今のところ紹介できる求人がないので、案件が見つかり次第連絡させていただきます」等の断りが返ってくることがありますが、これはエージェント企業が持っている求人案件に50代の人材に対する引き合いがほとんどないことを示していますので、過度に失望せず、一旦諦めるのが肝要です。

ここまでが第2ステップ

そうして1~2週間、あるいは1か月近くが過ぎた頃、ある日、山ほどくるメールの中から、「これは!」という求人案件が目にとまります。

「仕事内容が求めていたものに近いし、経験が求められているのも自分に合いそうだ」と。

念のために募集企業のホームページや、会社の評判をネット検索して「問題なさそうだし、試しに応募してみるか」と、思い切って応募してみることに。

エントリー後は毎日、返事が来ているかどうかが気になってスマホを確認する回数も一層増えます。

面接の際に聞かれそうなことを想定してアンサーをあれこれ考え、頭の中でシミュレーションしてみたり、ネットや本でエントリー先企業の事業内容に関係する情報を集め、にわか知識を補完したりして、いつ面接の連絡があっても良いように準備をしつつ過ごします。

そして数日が過ぎたころ、エージェントから待ちかねていた通知が届きます。その文面は・・

「登録されている〇〇様のご経歴と、企業様の募集内容を慎重に検討させていただきましたが、今回の募集につきましては、ご案内が難しいと判断させていただきました」

エージェントを介さず転職サイトから企業に直接応募したなら、次のような文面になります。

「このたびは、数多くの企業の中から当社にご応募いただき、誠にありがとうございます。厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回はご希望に添いかねる結果となりましたことをお伝え致します」

要は、不採用通知です。

これを見て、きっとまず最初に感じるのは、不採用になったことに対する失望ではなく、かなり吟味して応募したつもりのエントリーが、面接にも至らずに書類選考で不採用になったことに対する「徒労感」だと思います。

エントリーして後の数日間、それなりに情報収集をし、想定問答を考え、「ふさわしい応募者」であろうと用意してきたこと、それが何ひとつ試されることもなく門前払いになったことに対する徒労感です。

年齢と経験を重ねているシニア世代は、個人差はあれど、企業が何を求めているかを概ね的確に推察できる能力を持っています。

人間、自分自身のことは案外見えていないのが常ですので、自分がその条件に適合しているかの判断には誤りがあったとしても、採用企業のニーズに対する推察自体が的外れであることはあまりないといって良いかと思います。

であるからこそ、シニア世代の求職者の方の多くは、企業が求めている人材像と現状の自分とのギャップを少しでも埋めようと、できる限りの事前準備をして臨もうとします。

また、長く社会人としてのコミュニケーションを重ねているからこそ、ある程度、面接選考に対して自信を持っている人が多いのも、この世代の求職者の方の特徴かと思います。

そして、それゆえにこそ、書類選考で不採用になった時の徒労感というのが、ひと際大きいのです。

以上が第3ステップ

そして第4ステップは、第1ステップから第3ステップの繰り返しです。

「今度こそ」書類選考を通過するように職務経歴書を推敲・修正する第1ステップ。

日々募る焦りの中、案内メールを見、求人サイトを検索し続ける第2ステップ。

熟慮の末のエントリーと、より入念な事前準備、そして書類選考不採用通知の第3ステップ。

この繰り返し、ループです。

最初のうちは、思っていた以上に低い自分の“市場価値”を嘆いてみたり、年齢のみで判断して選考面接に進ませようとしない企業に対してぼやいてみたり、それでも前向きに臨んでいますが、

5回、6回とこのループを繰り返すうちに、転職の志向が下向きのらせん回転に変わっていきます。

年収などの条件を下げ、応募対象企業の業種・職種の選定も広範囲になり、自らを売り込むスタンスから、次第に“拾ってもらう”スタンスになっていきます。

そして、このループが10回以上も繰り返されると、今度は逆に業種・職種の範囲が極端に狭くなり、次第にエントリーの頻度が減っていきます。

ここまでくると、シニアの求職者なら誰もが多かれ少なかれ持っている、キャリアに対する「自己幻想」が崩れてしまい、転職活動そのものに疲れ切ってしまうことも。

そうなると、最終的には転職を諦めて会社にとどまるか、退職せざるを得ない場合には、感心の矛先がもっぱら失業手当や退職金へと向かっていきます。

以上は、あくまで私の経験を含めた“傾向”で、もちんろん、折よく良い転職先が見つかってスムーズに次の就職先が決まる例もあります。

ただし、圧倒的多くの場合は、このループに陥ることがむしろ通常であると思っておいた方が良いかと思います。

高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務になるとは言え、それは主に退職者の再雇用や、社員の勤務延長制度によるもので、50歳前後の転職者を積極的に受け入れようという企業は、一部の例外的業種・職種を除けば、そうそうあるものではないというのが、今の日本社会の現状です

現実を自覚した上で「新たな仕事観」を持って臨む

ここまで書いてきたように、50代の転職活動は極めて厳しい状況下に置かれるのが通常です。

書類選考不採用のループに陥るのを確実に避けるための方法もありません。

しかし、転職自体が不可能かと言えば無論そんなことはありません。

たやすくはありませんが、現にシニアの転職者の多くが、新たな職を見つけて就労に勤しんでいます。

在職時の延長線上にある考え方やプライド、これまでの転職に対する考え方、年収も含めて、

既成概念を一旦精算し、今後のキャリアプランを再度熟考した上で、新たな仕事観を持って、粘り強く転職に取り組むことで、必ず道は開けます。

ワークライフバランスに比重を置いたスローライフを志向する場合は、ある程度の年収ダウンは想定内とするのが肝要です。

年収アップやキープでの転職は、ハイクラス人材を求める企業のニーズに合致する明確なスキルや業績、もしくは個人的なツテや、よほど運の良い出会いがなければ難しいのが現実です。

ただし、年収ダウンと言っても、800万円台の年収を得ていた人が切羽詰まった結果、年収300万円台の望まざる職場に転職せざるを得ないケースもあれば、前職の2~3割程度の減収で納得できる仕事・職場を見つけて「成功」しているケースもあります。

その「差」は能力の差にあらず、転職活動の際の考え方、転職活動の仕方にあるといっても過言ではありません。

いつまでに転職しなければならないという「期限」と、そのための「行動量」を設定し、それを実行できるか否かの差、自らの置かれた現実を、どれだけ早い段階で直視できるかどうかの「自覚の差」によるところが大きいと思います。

現実をしっかりと見極めた上で、適切な、身の丈に合った判断をする。

そして、友人や配偶者、職場の同僚、取引先の関係者、あるいは転職エージェントのアドバイザーなど、他者の声によく耳を傾け、適切かつ合理的な転職活動をすることが大切だと思います。

まずは過去ではなく、今自身が置かれている目の前の現実を直視しすること、

そして、今自身が求める、今後の生活スタイルに適した仕事選びを念頭に置くこと。

私も、目下求職者の一人として、自戒を込めてこれを肝に銘じつつ、求職活動中です。


次回は
50代の転職に立ちはだかる1パーセントの関門を乗り越えるために。

前稿では、いささかの知見と私自身の体験をもとに、50代の転職の現実について述べさせていただきました。 ではどうやってその「厳しい現実」を乗り越えていったらよいのか、今回は、そこのところを中心に書いてみ ...

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